序章 忘却の記憶

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自宅から高校までを繋ぐ汽車に乗り込んでガタンゴトンと揺られながら、 片道30分程の鉄道の旅をする。 夜の風景よりも明るい車内灯のせいで、 窓ガラスは鏡になって自分の顔とにらめっこ。 午後七時過ぎの汽車はいくつかの駅といくつもの踏切を通り過ぎた。 線路脇を走る道路からこちらを眺める男の人と目が合った気がした瞬間。 降り始めた雪が写真のように静止した。 …トクン! あまりにも一瞬だけど、私の心臓が確かに跳ねた瞬間だった。 胸が締め付けられて、 汽車が大きく揺れた拍子に窓とおでこがゴツンとぶつかった。 涙目を拭きながら振り返っても、 その人影は遠ざかり鼓動はいつもの強さに戻る。 ……あの人は一体、誰だったんだろう?
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