第1章 ハイドアンドシーク

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実際、今年に入ってから私はこの教室で二度も嘔吐した。 それから先生は毎朝必ず私の顔色が少しでも青いと、保健室に行かせたがるようになった。迷惑かけたんだからしょうがない。吐しゃ物を始末した先生の身になって想像したら、誰だって気分が悪くなるもの。 六年一組の教室を出て木造校舎の廊下を歩くと床が軋む。 廊下一面に張られた窓ガラスにコツコツと大粒の雨が叩いた。 夏の終わりの嵐が過ぎる度に気温がぐんぐんと下がっていく。北国の秋は足早に通り過ぎて、あっという間に長く白い冬がやってくる。凍てついた風景の中で元気に遊ぶ子供の中に私は入らない。いつもどんなときも一人だった。 波戸崎家の子供は友達ができにくい。 生まれ育った町なのに、私はまるで部外者のように無視されてきた。未婚で私を生んだお母さんも地元民なのに、小さい頃から仲良くしてくれる人は数人しかいなくて、私にとって何でも相談できる相手なんて皆無だった。 だから、私がどんな悩みを抱えていようと誰も知らない。 私からも頼ることもない。 巡る季節とは裏腹に 私の心は時が止まったままのようで、 どんどん置いてけぼりになっていく感覚に 時折猛烈な寒気を覚えた。 だけど私にはどうすることもできない。
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