第1章 ハイドアンドシーク

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玄関のすぐ隣にある保健室のドアを開けると、消毒液の匂いがした。 この匂いを嗅ぐとなぜか気分が落ち着く。 椅子に座って机に向かっていた保健室の先生が私を見て目を丸くした。 「あら、久しぶりね。 どうしたの? 顔色真っ青よ?」 木根先生はお母さんよりもずっと年上だ。親しみやすくて面倒見が良いため、私を除く全校生徒が頼りにしている。私もお母さんが木根先生みたいに包容力があれば良いのに、と時々本気で思ってしまうけど、私はやっぱり誰も頼らない。 先生から「行け」と言われたから来ただけ。 私の意志とは関係ない。 検温すると、38度あった。自分でも吃驚してしまう。 「おうち帰れる?」 「はい」 学校の先生達は私の家庭事情はたぶん知っている。 お母さんが町営病院で長く看護師をしていて、母子家庭であることを。 お母さんの実家は山をひとつ超えたところにあって、病院から遠いからと町内のアパートで親子二人で暮らしていた。三交代制で働くため、深夜いない日もあれば日中自宅で寝ている日もある。
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