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さっきから、黙ったまま僕を見つめていた篠田は、ぼんやりと頷いた。
こっちは、魅了が効きすぎのようだ。
まあ、いいか。
「僕は、東星学園の校長先生からの依頼を受けて、明日から、保健室に詰める予定だったんだ」
「そうだったんですか!」
篠田の顔が、急に、ぱあっと明るくなった。
「安心です。心強いです! 鈴木さんみたいな人が来てくれるなんて!」
「いや……あのな。
まだ、僕は、君の心配事を詳しく聞いてないし。安心するのは、ちゃんと話し合ってからの方が……」
「でも……本当に、悲しくて……怖かったのに。
親も、先生も、ただ忘れろって言うだけで話なんて、少しも聞いてくれないし……」
明るくなった表情が見る見る曇り、泣きそうな顔になった。
めまぐるし過ぎるほどの、感情の波がある。
そうか。
だから「魅了」が効きすぎているんだ。
魔法、と言っても別に、僕がアダブラカダブラ、なんて呪文を唱えているわけじゃない。
人間の恋とか、愛とかって言うのは思い込み、って言うのが多い。
「魅了」は軽い暗示みたいなもので、近くにいる人間の一番良かった頃の記憶を呼び覚ます。
そして、僕を今までであった中で一番心地よかった人物と重ねあわすことによって起こるのだ。
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