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「な……何言ってんですか!」
西岡課長からそんな冗談を言われるとは思わなかったので、私は慌てふためいて椅子の背に勢いよく仰け反った。
「反応しすぎだ」
「からかわないでくださいよ! 汗かいたじゃないですか。せっかく涼んだのに」
「おーおー、そんなに嬉しかったか」
真っ赤になって憤慨していた私は、その時ふと視線を感じた気がして顔を上げた。
可笑しそうに笑っている課長の後ろを、二人連れが通り過ぎながらこちらを見ていた。
「あ……」
それは遼太郎だった。
前にもこんな場面があったな……。
笑顔を引っ込めて会釈をしながら、ずっと昔のことを思い出す。
壽崎くんとふざけている時に、家の前でばったり鉢合わせした場面だ。
あの時と違い、遼太郎は仕事仲間らしく笑顔で会釈を返した。
それは振り向いた西岡課長に向けられてものだったかもしれないし、いかにも仕事用の笑顔だったけれど、私の血圧を上げるだけの威力を持っていた。
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