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「ごちそうさまでした」
いつもながら奢ってもらうので、これも毎度ながら頭を下げる。
「いえいえ。煙草の匂いをつけた慰藉料だから」
「私は気にしませんよ」
課長と一緒に仕事をするなら仕方のないことだ。
「少しは気にした方がいいぞ」
「それ課長が言いますか」
そうだなと笑ってから、西岡課長は伸びをした。
「さあ、事務所に帰ってデータ整理するか。今日はたくさん視察したから大変だぞ」
「頑張りましょう!」
課長も自分も励ますように、元気よく答えて隣に並ぶ。
ガラスの向こうには私たちがいた席を片付けている店員の姿が見えた。
その奥にいる、遼太郎と市川さんは見えない。
二人はどんな会話を交わしているのだろう。
倉上ビルに喫茶部は入っているのに、なぜわざわざここなのだろう……?
心にまとわりつく影を振り切るように、オフィス街のランドマークに向かって歩き出す。
今、事務所に戻っても遼太郎はいない。
その安心感に混じる物足りなさから目を逸らしながら。
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