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「どっちがいいかなー」
「早くしろよ」
「わあっ」
いきなり頭上から声が聞こえたので飛び上がった。
その声と喋り方は、昔の遼太郎だった。
「ご、ごめんなさい」
飲み物を選んでいたことも忘れ、飛び上がった拍子に遼太郎の足元に落としてしまった小銭入れを拾おうと慌ててしゃがんだ。
近づかないで済むよう、できるだけ手を伸ばす。
あともう少し……。
「押すぞ」
やっと小銭入れを掴んだ私の頭上でじれったそうな声が聞こえ、続いて販売機がボトルを吐き出す音がした。
呆気に取られていると、遼太郎は屈み、自動販売機からオレンジ味の炭酸を取り出した。
「……」
何と言えばいいのかわからず、遼太郎のチョイスによるボトルを無言で受け取る。
勝手に押されて怒るべきなのだろうけれど、その勇気がない。
遼太郎の前では、まだどう振る舞っていいのかわからなかった。
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