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「西岡課長を待ってたのか?」
「ううん」
西岡課長は東急線の溝の口駅の借上げ社宅に住んでいる。
私と同じ線の一駅隣なので、一緒に帰ることがが多い。
でも、今日は違っていた。
課長は定時で上がり、夕方の新幹線で慌ただしく帰阪したのだ。
仕事の用件ではなく、プライベートの帰省だという。
妙に明るい笑顔はどこか無理しているようで、今回の帰省が課長にとって辛いものであることを私は何となく察していた。
〝向こうが決めることだからな。僕はどうにもできない〟
課長の言葉を思い出していた私は、ぼんやりと説明を付け足した。
「課長は夕方の新幹線で大阪に帰省したから、今日はいないの」
それを聞いた遼太郎は隣でかすかに鼻で笑った。
「今日は、か」
その皮肉な調子に、私は課長のことを考えるのをやめて遼太郎を見上げた。
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