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二人はもう駅の前まで来ていた。
遼太郎は丸の内線、私は半蔵門線に乗る。
あともう少しでこのきつい会話から逃れられる。
内心ほっとして、階段を降りる私の足は自然と早くなった。
ところが、遼太郎はまだ言い足りなかったらしい。
「西岡課長とそういう関係なのか?」
「私たちは……」
駅の雑踏の中で立ち止まり、遼太郎に向き直る。
真っ向から否定するはずだったのに、不純な考えがそれを止めた。
西岡課長にまで気づかれてしまった遼太郎に対する動揺を、遼太郎本人に気づかれるのは時間の問題だ。
この七年間、過去のみっともない自分から脱皮しようともがいてきたのに、何も変わっていないと思われるのが悔しかった。
そして、まだ遼太郎に惹かれていると思われるのが怖かった。
〝私はもうあなたのことなんか何とも思っていない。好きな人がいるんだから〟
プライドがそんなつまらない見栄を張った。
昔と同じだ。
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