第十三章 蜘蛛を持つ男 三

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 俺は電信柱にぶつかっていたらしい。  すると、俺の手から蜘蛛が出ていた。小さいので雌であるが、金色であった。 「金色、住み着いていたの……」  蜘蛛を飼うつもりはなかったが、どうも住みつかれてしまったらしい。  金色の蜘蛛は俺の手で跳ねると、何かを訴えていた。 「俺、金色の言葉が分からないよ」  谷津も金色を見つめて唸っていた。 「ここには、亜種の蜘蛛がいた?」  そこで、金色がくるくる回っていた。どうも、他の蜘蛛の気配で、戦闘能力の高い金色が出てきたらしい。 「もしかして、その蜘蛛は、相当、強い?」  金色が跳ねているので、相当に強い蜘蛛がいるらしい。 「黒色の毒は、蜘蛛には効かないの?」  そこで、金色は固まって困っているので、回答は求めないようにしておく。金にも、黒の事は分からないのだろう。 「金色、殺されているのは、人なの?」  そこでも、金色は返答に困っていた。 「そうか、お好み焼き屋の女房は、最初から蜘蛛を宿していたのか」  そこで、金色が激しく跳ねていた。 「宿していたのは一匹?」  金色は、足で何か叩いている。 「二匹なのか……」  だんだん、金色の言葉が分かるようになってきた。  金色が他の蜘蛛から仕入れた情報では、お好み焼きやの女房は体が弱く、滋養強壮のために飲んだ薬が蜘蛛の卵であったらしい。何も知らずに飲み、健康になったので満足していた。  しかし、ここに他の種の蜘蛛が現れて、縄張り争いに巻き込まれてしまったらしい。 「まあ、ある意味、本当に喧嘩なのか」  警察の見解が合っていたとは驚きだった。  でも、そんな喧嘩で死んだとは知らないお好み焼きやの店主は、犯人にも警察にも殺意を抱いている。 「え、ここに蜘蛛使いが来て、自分の蜘蛛を殺されていたので、怒っている?」  やはり、蜘蛛使いは小出の他にも来ているのか。  金色は言葉が通じて嬉しいのか、俺の顔に来て頬擦りしていった。俺も、金色は金属のようなので、どこかおもちゃのような気分になってしまう。 「谷津、この蜘蛛達と会話できるソフトを作ってよ」 「簡単に言うなよ」  でも、先ほどから谷津は真剣に金色を観察していた。 「しょうがないから、協力してやるけど。これは、大慈が向いているかもしれないよ」  大慈は蜘蛛と似た大きさであるので、より微細な動きが観察できるだろう。 「李下さんに協力を求めておくよ」
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