第十三章 蜘蛛を持つ男 三

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 そこで、金色のナビで、蜘蛛がいた場所を巡ってみる事にした。金色は、足で方向と高さを示してくれる。まるで、方位磁石の針を見ながら歩いているようであった。  ホテルの裏手に行くと、ゴミ捨て場に気配が残っていた。他に、やはり、この飲み屋街の隙間などに、気配が残っている。 「金色、このホテルを指すけど、どの辺?」  すると、金色は全部を丸で囲んでいた。このホテルを巣にして行動していたようだ。 「ここにいたのは、一人前の蜘蛛なのかな……」  そこで、金色が小出から旅立ってから、どのように生きているのか説明してくれた。一つは、人間に寄生して生きる。だが、人間だけだと闇が喰えないので、周期的に闇を喰うために人から出て、闇を蓄えると他の人間を探す事を繰り返す。  人だけではなく、動物への寄生の場合もあるらしい。でも、この蜘蛛は仲間と巣というものを共有する。巣では、傷ついたり弱った蜘蛛を保護し、仲間が餌を運んで助ける。 「ここは、巣なのか……」  巣の条件としては、様々な人が眠る場が好ましい。眠っている時に、寄生したり、血を吸ったりできる。  こちらの世界では闇が薄く、通常では食べる程は溜まらない。しかし、夜の商売が多い場では、闇が溜まりやすい。その点では、飲み屋街を持つこのホテルは、蜘蛛の快適な住処であった。 「通常では、人を喰って消すまでの飢餓はない。どこかで飢餓状態まで閉じ込められ放たれると、帰巣本能でこのホテルに帰るが、その時に喰い始める」  蜘蛛の縄張り争いと、人工的な飢餓がここにはある。ホテルが休業となったので、ここを巣にしていた蜘蛛が散っていた。 「昆虫には詳しくないから、辛いな……」 「蜘蛛は昆虫ではないでしょ」  谷津と周辺を歩き回り、蜘蛛の痕跡を確認しておく。後は、このお好み焼き屋の店主の行動を観察するしかない。 「店主の監視はつけたよ。この事件の詳細を流しているから、結構、傍観者がいるしね」  谷津は、又俺の名前で発信しているらしい。俺の名前には、今までの事があるので、付加価値がついていて、凶悪犯罪が見られるというメリットのようなものがついていた。 「傍観者を半参加者にするのか……できるかな……」 「自分だけしか見ていない場合、傍観者でいられるか?だよね」  自分が助けなければ、相手が死ぬという場合も、人は傍観者でいられるのであろうか。そこが、谷津の仕組みだという。
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