第十四章 蜘蛛を持つ男 四

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 西崎が、無時に蜘蛛を飼えたならば、その方法を小出は伝授してゆくらしい。 「……西崎は引き受けるでしょうか?」 「西崎は、必然的に蜘蛛をメンテしていかないと……」  しかし、俺に蜘蛛がついている前提というのが、どうも気に入らない。結果的に、俺には五匹が住んでいる気がするが、それでも確定ではないだろう。すると、見慣れていない、緑色の蜘蛛がやってきていた。緑色の蜘蛛は、俺にお辞儀をすると、何か必死に訴えている。 「村に来いですか?」  そこで、緑色は跳ねているので、それが正解らしい。昨日も村に行っているので、連続では行きたくない気もするが、どこか緑色の蜘蛛が必死なので、ついて行ってしまった。  緑色の蜘蛛が案内してくれたのは、昨日の崩壊の現場であった。直江津が、小さくなってゆく奈緒の影を見つめ続けていた。奈緒の影は、蜘蛛が食べ続けている。 「直江津さん、何か変わった事はありますか?」  直江津は憔悴していて、立ってもいられないようであった。目が真っ赤で、泣いていたのだと分かる。その傍らに、がたいのいい青年がいた。どこかで見覚えがあると思ったら、 よく荷物を届けて貰う配送会社の青年であった。  もしかして、直江津の昔の相手もこの人であろうか。今も、直江津を見つめる目が優しい。 「……蜘蛛が減った」  蜘蛛は沢山いるように見えるが、一部減っているという。腹が一杯になって帰ったのかと思ったが、それでは緑色が呼びに来た理由にはならない。 「異種がいるの?」  すると、緑色が跳ねていた。 「金色、どこに異種がいるのか教えて!」  すると金色が出てきて、跳ねてから市役所の屋上を指した。 「市役所の屋上か……」  今日は日曜日なので、職員はいないのだろうか。市役所の前に来ると、津賀が立って待っていた。 「屋上ですね……分かりました」  津賀が玄関を開けて、エレベーターの電源を入れてくれた。  屋上に登ると、そこには黒い点があった。それは、皆、蜘蛛で数百匹ほどいた。黒色は猛毒だと聞いたが、これも、猛毒なのであろうか。 「金色、こいつらは猛毒なの?」  すると、金色は八つの目を相手に向けて確認していた。 「毒はありません。あの姿が一般兵士です」 「え、喋った?」  どこから声がしたのか周囲を見たが、声の主はいなかった。やはり、金色が喋ったのであろうか。金色が喋れるのならば、翻訳ソフトは必要としない。
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