第十四章 蜘蛛を持つ男 四

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 蜘蛛同志の抗争は、どちらがどうなのかは、全く見分けがつかない。しかし、ここにいる蜘蛛が陽動であるのならば、向こうで活動している蜘蛛は異種の仲間ということになる。  エレベーターに乗りたいが、ここで個室に入るというのも危険な気がする。 「蜘蛛は交番に向かっていないかな?」 「……向かっているみたいだな」  では、警官に恨みがあったのであろう。 「谷津、傍観者に、俺達はここで足止めされていて動けないという情報を流してよ……」  大量の蜘蛛は、飢餓状態になっていた。飢餓状態になると、赤い目がより赤くなり光り始める。その目の光が、路地のあちこちで赤く見えていた。そこに野良猫が通ると、一瞬で消えてしまった。  更にそこに、犬を散歩する男性が通り、やはり蜘蛛に襲われていた。蜘蛛が最初に男性に襲い掛かったので、手から放されたリールが道路に落ちた。犬は逃げずに吠え続ける。通りすがりの数人が、路地の中を覗き込に、そして、悲鳴を上げていた。  路地には、頭と足、手が残っているが、他の部位のない死体が転がっていた。蜘蛛は、内臓から食べてゆき、頭や手足は最後に食べる。  悲鳴を上げた人は、警察に電話をしているが、交番を思いだしたのか、走ってゆく者もいた。 「交番か……」  そこで、交番に入ると、又、悲鳴が聞こえていた。交番には、大量の血が飛び散っているが、人の気配が無くなっていた。 「交番の中にもカメラはあるよね?」 「裏には無いよ」  蜘蛛の足取りを辿りたいが、小さい上に黒く、カメラでは追跡できない。 「蜘蛛の予測数から計算して、全部が飢餓状態だとすると、十人は食べ尽くす。今のところ、男性一人でしょ、警官三人か四人だ」  後、五人は喰われてしまう計算になる。  パトカーの音が鳴り響き、まず最初の被害者の遺体が確認されていた。そこに、交番の異常を知らせにきた人が、警官の一人を連れて行った。  警官は急いで応援を呼び、他に感染センターのような所に連絡していた。死因が分からないが、人の仕業ではないと感じたのだろう。 「大問題になりそうだね……」 「そうだね……」  どう収集したら良いのかは分からないが、むこうの蜘蛛はどうにかしたほうがいいようだ。 「上月、こちらの蜘蛛は、後少しで最後だ」  黒川の声に、俺が周囲を見てみると、蜘蛛がいなくなっていた。 「谷津、向こうにいる蜘蛛をどうにかしよう」
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