第二章 千年時計 二

3/9
前へ
/210ページ
次へ
 教えるのはいいが、俺が実験台というのが辛い。あちこち、捩じられて雑巾にでもなった気分になる。 「直江津さんは、何を教えていたのですか?」 「小学生の担当でしたので、全教科ですよ」  小学生では、確かに喰って逃走というのは不味いだろう。相手が抵抗したとも考えられない。しかし、直江津の言葉を聞いていると、どこか安らいでくる。こんな人が、子供を喰って逃走などするのであろうか。でも、その事は、直江津も記憶していないので、分からないらしい。 「直江津さんは、パートナーがいたのですか?」 「はい。×なので子供は作れませんでしたが、×の女性と結婚していましたよ」  同じ征伐部隊だった女性と、直江津は結婚したらしい。その女性の行方を聞いてみると、慧一から回答があった。相手の女性は、直江津と同じく、二十年前に失踪していた。  そこで、マッサージが終わり、確認すると足が物凄く軽くなっていた。 「育ち盛りの子供は、体に歪みも出ます。それを調整してあげると、楽になるのですよ」  俺は成人しているので、決して育ちざかりではない。しかし、足がよく動くようになっていた。 「志摩さん、守人様を愛するのはいいですが内臓というのは痛点が無いのですよ。だから、無理をすると内臓を突き破ってしまうかもしれません。優しくしてあげてください」  どうして、志摩が俺のパートナーだと分かったのであろう。すると、直江津が男性の内臓の仕組みを、図を描いて説明していた。志摩と大慈が、それを真剣に聞いていた。  大慈は、俺よりも年上ではあるが、胎児のミイラであるので、どこか子供に思えてしまう。大慈を図から引き離そうとすると、胎児は志摩の指にしがみ付いていた。 「尻というのはデリケートで、内臓は外皮に守られていません。痛点が無いということは、痛みを感じないので非常に危険です。血が出ていなくても、無理をすると、翌日腹が痛くなりますからね」  それは、志摩にされて痛感している。でも、志摩には黙っていたので、ここで教えてくれて良かったかと思う。志摩は、不安そうに俺を捕まえて、手で俺の全身を握っていた。俺は、志摩の指に頬擦りしておく。 「……痛かったですか?守人さん」 「まあ、多少はね。でも、志摩ならば、いいの」  俺達を見て、直江津が笑っていた。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加