第十五章 蜘蛛を持つ男 五

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 谷津が動く指を使用して、かなりのスピードで端末を操作していた。自宅や店には、店主の姿はなく、谷津は防犯カメラで居場所を探していた。 「それと、怨恨だとすると、犯罪を見ている可能性が高いよね」  望みが達成されるのを、自分の目で見たいだろう。犯罪が起こった時点の映像を、片っ端から集めてみた。  それと、谷津は監視カメラに無断にアクセスした回線を追い掛けていた。 「後は、小さい蜘蛛に餌を与えて、帰してみるかな……」 「うまく、帰るかな……」  谷津としては、恨みの本質を知りたいらしく、殺された人の素性を調べていた。 「妻が殺されたのに、犯人扱いした挙句、事故で済まされた」  それも相当恨むが、それだけでは、無差別殺人をするまでは恨まない。当事者を殺して終わりになるだろう。もっと、広範囲な恨みがあるはずだ。 「元の仕事で罵られて、死んで当たり前と言われたとか?」  それは、相当に腹が立つだろう。俺も、偽守人様と言われて、死んで当然と言われた事もある。きっと人には、触れられたくない傷がある。 「残っている記録を読んでみる」  すると、慧一から連絡があり、記録を寄越せば読んでおくと言われた。慧一も、こちらの動向を見守っているらしい。 「慧一さん、お願いします」  素直に谷津が資料を渡すと、十分もしないうちに慧一から連絡が入った。 「お好み焼き屋は、空き巣に入られていて、その時に来た警官に、自業自得と罵られた。その映像がインターネットに流れて、今度はその警官が左遷されて、自業自得と書き込まれていた」  その時の警官の顔写真を見ると、どこかで見たような気がした。谷津と、野次馬を拡大して見ていると、この男は幾度か野次馬の中にいた。 「慧一、この警官は、今はどこにいるの?」 「僻地に転属になって、警察を辞めた。その後、妻と離婚して、実家の農家を継いだとある」  農家では、勤務時間が分からない。そして、畑では防犯カメラでも監視できない。 「あ、お好み焼き屋の店主を見つけた……」  監視カメラの位置から、かなり離れていてよくは見えないが、蜘蛛に追われているようだった。 「……復讐しているのは、この警官だったのか」  自分が左遷させるきっかけを作った、お好み焼き屋の妻を殺し、同僚だったのに自分を庇わなかった警官を殺した。 「谷津、この事件の手持ちの情報を無料で開放して」
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