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でも、俺には気配を消していても、見えてしまう。
「李下、レストランの予約を取ったから、食べてゆこうよ」
「そうしますか」
黒川は、どこかで食べるというのが、好きらしい。どこか楽しそうに、黒川が鼻歌をうたっていた。
「誓悟、相馬だものね。食には拘る」
「黒川家は、相馬家なのでしょ?」
そこで、永新は口笛を吹いていた。
「昔は、今のように所属する家が決まっていたわけではないのですよ。黒川兄弟は、よく所属を変えていました」
李下は淡々と説明してくれた。
「でも、最後に仕えてしまったのは、上月になったな」
守人様に契約してしまった×は、共に死んでしまうのだ。
「嫌ですか?」
そこで、永新が手を伸ばして、俺の頭を撫ぜていた。
「こんなに、退屈しないで済む主はいなかったよ」
褒められている気が全くしない。やはり、馬鹿にされているのだろう。
「それに、最後に兄弟で同じ主になるとは、思いもしなかったよ。このバカを残すと気がかりだったしね」
黒川が、永新と睨み合っている。この兄弟は、喧嘩をするが基本的に似ている。兄弟喧嘩を放置していると、どうして止めないのだと巻き込んでくる。
「黒川さん、レストランです」
そこで分かったが、予約していたのはロブスターの専門店であった。あんなに蜘蛛を見ていて、どうしてロブスターを食べたいと思ったのであろう。
「蜘蛛が焼けているのを見て、少し美味そうだなと思ってね」
高級店には違いないが、どうにも食欲が出てこない。
店内に入ると、黒川は個室を頼んでいた。個室でも、外からは見えるようになっていた。俺達は男四人で、しかも服装が揃っていない。年も微妙で、皆がじろじろ見ている。しかし、黒川と永新が、笑顔で見返すと、視線を逸らしていた。
「上月、俺の事をお兄ちゃんと呼んでみて」
黒川は、黒川で、お兄ちゃんとは呼びたくない。でも、それで解決する事があるそうだ。
「お兄ちゃん」
「もう少し、感情を込めて言って欲しいな……」
俺は、兄の慧一もお兄ちゃんなどとは呼んでいない。
「上月」
そこで、黒川が抱き着いてきたので、じたばたと足掻いてしまった。
「黒川さん」
「お兄ちゃんと言ったら止める」
そこで、息を吸い込む。
「お兄ちゃん!こんな所で遊ばないで!」
ふと、客が全員こちらを向いた気がした。俺は、そんなに大声で言ってしまったであろうか。
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