第十五章 蜘蛛を持つ男 五

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 でも、俺には気配を消していても、見えてしまう。 「李下、レストランの予約を取ったから、食べてゆこうよ」 「そうしますか」  黒川は、どこかで食べるというのが、好きらしい。どこか楽しそうに、黒川が鼻歌をうたっていた。 「誓悟、相馬だものね。食には拘る」 「黒川家は、相馬家なのでしょ?」   そこで、永新は口笛を吹いていた。 「昔は、今のように所属する家が決まっていたわけではないのですよ。黒川兄弟は、よく所属を変えていました」  李下は淡々と説明してくれた。 「でも、最後に仕えてしまったのは、上月になったな」  守人様に契約してしまった×は、共に死んでしまうのだ。 「嫌ですか?」  そこで、永新が手を伸ばして、俺の頭を撫ぜていた。 「こんなに、退屈しないで済む主はいなかったよ」  褒められている気が全くしない。やはり、馬鹿にされているのだろう。 「それに、最後に兄弟で同じ主になるとは、思いもしなかったよ。このバカを残すと気がかりだったしね」  黒川が、永新と睨み合っている。この兄弟は、喧嘩をするが基本的に似ている。兄弟喧嘩を放置していると、どうして止めないのだと巻き込んでくる。 「黒川さん、レストランです」  そこで分かったが、予約していたのはロブスターの専門店であった。あんなに蜘蛛を見ていて、どうしてロブスターを食べたいと思ったのであろう。 「蜘蛛が焼けているのを見て、少し美味そうだなと思ってね」  高級店には違いないが、どうにも食欲が出てこない。  店内に入ると、黒川は個室を頼んでいた。個室でも、外からは見えるようになっていた。俺達は男四人で、しかも服装が揃っていない。年も微妙で、皆がじろじろ見ている。しかし、黒川と永新が、笑顔で見返すと、視線を逸らしていた。 「上月、俺の事をお兄ちゃんと呼んでみて」  黒川は、黒川で、お兄ちゃんとは呼びたくない。でも、それで解決する事があるそうだ。 「お兄ちゃん」 「もう少し、感情を込めて言って欲しいな……」  俺は、兄の慧一もお兄ちゃんなどとは呼んでいない。 「上月」  そこで、黒川が抱き着いてきたので、じたばたと足掻いてしまった。 「黒川さん」 「お兄ちゃんと言ったら止める」  そこで、息を吸い込む。 「お兄ちゃん!こんな所で遊ばないで!」  ふと、客が全員こちらを向いた気がした。俺は、そんなに大声で言ってしまったであろうか。
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