第十六章 思い出の中の悪魔

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 そこで、李下が困ったような顔をしていた。 「兎屋の呼び出しならば、行かないといけないな……偉智、店を頼む」  そこで、李下と一緒に村に行く事になってしまった。  李下はご神木を、降りるというよりも、飛び降りる。そして、境内には既に車が用意されていた。 「姉さんが、こちらの行動を読んで用意するのですよ」  李下の姉も、暗殺部隊だったか、征伐部隊にいたので李下の行動が分かるらしい。 「兎屋ですね」  そこで、車で兎屋に行くと、確かに何かが起こっていた。西崎は店で店員をしていて、小出は庭で芝刈りをしていた。 「西崎が働いている……」  兎屋は横から出てくると、慌てて日傘を差していた。 「それがね……」 「俺、小出さんと結婚することにしました」  西崎が、兎屋に向かって言っていた。 「西崎君ね、蜘蛛使いになると決めたらしいのよね。そこで、小出さんについていきたいと言い出して……」 「俺は認めていない!」  小出は了承していないらしい。 「まさか、これで呼び出していないですよね……」  兎屋の目が泳いでいたので、これで呼び出したのかもしれない。 「西崎君には、蜘蛛を入れて様子をみているところでね。順調だけどね、やはり、再生には時間がかかりそう。今のペースだと、五年はかかるかしらね」  五年でも再生が進んでいるのならば、問題はない。西崎は、五年間、蜘蛛を観察し続けるのならば、蜘蛛使いになりたいと思ったらしい。 「毎晩、抱いてくれるのは、嘘なのですか?」 「あれは、内臓の具合を確認する意味もある」  まあ、嫌いならば、毎晩そんな方法で確認しないだろう。谷津は振られたのかもしれないが、これは、これでいいのかもしれない。  嫌がっているが、小出もどこか覚悟を決めたようで、死んだようになっていた表情も明るくなっていた。それに身綺麗にしているので、最初よりも若く見える。 「俺は、蜘蛛使いになります」 「それは反対していないよ。むしろ、応援している」  痴話喧嘩を見ているつもりもないので、携帯電話を手に取って、谷津に連絡しようとした。すると、谷津から短いコメントが入っていて、『知っている』とあった。この知っているは、西崎の現状であろう。 「だから、来なかったのか……」  谷津も今は、西崎に会いたくなかったのだろう。 「上月君、兎吉屋にお願いします」
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