第十六章 思い出の中の悪魔

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 兎屋は、女将の準備を待っていたらしい。女将が和やかに、料亭の中を案内してくれた。  しかし、部屋に入れるのではなく、待合室に通されていた。待合室は狭いが、椅子が用意され、テーブルなどもあった。打ち合わせなどは、ここでしてしまうのかもしれない。  赤い壁紙は和紙のようで、落ち着いていながらもお洒落に見えた。そこに丸い窓があり、庭が見えていた。 「……上月君、これから会うお嬢さんは、上得意先の一人娘でね……その、問題を抱えている」  この小さな村で、そんなに兎吉屋を利用できる住人がいたとは知らなかった。 「ええとね、半分村に所属しているような感じでね、行徳(ぎょうとく)様という、大会社の経営者の一族だね」  会社の本拠地は海外になっているらしい。今日、ここに一人娘の、行徳 里琴(ぎょうとく りこ)が来ていた。 「ここを頼る問題というのは、ろくなものではないですね」  兎屋も反論できないでいた。  兎屋を頼ってきているのは、兎屋が情報屋であり、占い師の為であった。 「まあ、会って欲しいのですよ」  そこで、兎屋に部屋を案内された。  李下と部屋に入ってみると、上座に若い女性が座っていた。髪が長く、綺麗な顔をしているが、色が白く、幽霊のような雰囲気もあった。 「俺は、上月……」 「あ、輝夜の家系ですね。その目の色、猫みたいです。それに、可愛い!私は行徳 里琴です」  自己紹介を遮られて、里琴が話し続けていた。しかし、俺が何も言えないでいると、里琴は急に黙ってしまった。 「上月 守人です」 「李下 佳人です」  今度は、里琴は何も反応しなくなっていた。これは、躁鬱の何かであろうか。李下が、里琴にそっと近寄ると、脈を取っていた。脈がかなり少ないので、貧血らしい。 「占いの前に、病院でしょう」  李下に手を握られて、里琴は少し頬が赤くなった。 「ごめんなさい。最近、貧血気味なの。悩みがあって、打ち明ければ、少しは気持ちが軽くなるかなと思ってここに来たのですけど」  里琴は、料理を頼むと、俺達に笑い掛けていた。その笑いがまた薄く、死にそうな人に見える。  そういえば、俺は西崎の件で呼び出されていた気がする。もしかして、兎屋に騙されたのかもしれない。
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