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そこで、会話を休憩して精進料理を食べてみた。俺は、山菜も嫌いではないが、どちらかというと肉が好きだ。そう言ってはいないのに、女将がハンバーグを持ってきてくれた。しかも、ハンバーグの上に、旗が乗っていた。
「旗というよりも、のぼりかな」
戦国武将の背につける旗のようなものが、乗っている。家紋を見ると、兎と月が書かれていた。
「月には兎でしょうか?輝夜様は、兎が好きですか?」
「まだ、食べた事はないです」
兎肉というのは、どんな味なのであろう。
「そうね、村でも兎はあまり食べないものね」
壱樹村に詳しいと思ったら、里琴はこの村に住んでいた事があったらしい。母親が死んだ五歳から、十歳までこの村の住人であった。
「里琴さん、お幾つですか?」
「女性に年齢を聞かないの。でもね、慧一さんと同じ教室だった」
慧一と同じ歳ということは、俺よりも年上ということか。
「水溜まりに映る空が重なると、あちらの世界を繋がる状態でね、今のように安定した行き来は出来なかったかな……」
水溜まりの空を利用するのは、俺もご神木の前はそうであった。何だか懐かしくなってくると、里琴の表情が又曇った。
「思い出してはいけないの。思いだすとね……いつも、人切りがヤッテクル……」
里琴の声が裏返り、今度は気絶していた。横に居た李下が、そっと畳に寝かせている。
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