第十六章 思い出の中の悪魔

9/10
前へ
/210ページ
次へ
 里琴は隣家に入ってゆき、何度もベルを鳴らしたが誰も出て来なかった。誰もいないのかと思ったが、裏手で何か音がしていた。そこで、里琴は音で自分の声が聞こえないのだと、裏に回ってみた。  すると、裏の倉庫のような場所で、バツンバツンという叩く音がしていた。里琴は、窓から中を覗き込む。 「嫌ああああ、見ないで!」   大きな台の上に、子供が乗せられて、鉈で刻まれていた。子供は生きていて、暴れていた。 「生きたままがいいのだ。このエネルギーが美味しい」  部屋には幾人も、刻まれた人が吊るされていた。皆、生きていて、何か言おうとしている。その一人と、里琴の眼が合って、里琴は気を失いそうになったが、自分お口を押えて家に帰った。  母親が食べていたのは人間であった。優しい隣人は人を食べている。この事は、誰にも言えない。母親が人を食べていたなど、誰にも知られたくない。 「封印リンクか……」  里琴は当主の家系だったのだろう。リンクの能力を持っていた。そして、隣人に強い願いをかけてしまった。決して誰にもバレずに隠れていて欲しいと。  そして、隣人を結界に閉じ込め、その場とリンクを張ってしまった。里琴は宙を見たまま、大粒の涙を流していた。 「そうでしたか。私が、自分でしたことなのですか……」  そして、思いだすとリンクが開き、この人食いというのか、人切りが出てくる。 「李下さん!来ます!」  そこで、リンクから影が飛び出し宙に舞った。振り下ろされる鉈を、李下が刀で受けていた。 「李下さん、捕まえて下さい!」 「分かっているよ」  李下と人切りが乱闘になったが、李下は縄で縛りあげてくれた。この縄のせいで、この人切りは里琴の中にも戻れない。 「誰にも、知られなくなかった事。でもそのせいで、私は人殺しを庇っていたの?」  里琴が思いだす度に、人切りは世の中にやってくる。そして、人を殺すと、里琴の中に隠れていた。 「いつも、私の近くでは人が死ぬのよ。それも、私に敵対したり、嫌いな人が死んでゆくの……私は、自分が悪魔なのかと思った……」  里琴のリンクを切らなくては、いつこの人切が里琴に戻るとも限らない。リンクを切った事はないが、里琴のリンクに光を流してみた。すると人切りとは別の意味で、俺は恐怖に固まってしまった。 「上月、里琴さんのリンクを切れ!」
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加