第十六章 思い出の中の悪魔

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 李下が、俺が悩んでしまったので、声をかけてくる。でも、これは俺の判断では、リンクを切れない。 「兎屋さん、お願いします!」  俺は兎屋を呼ぶ。兎屋は部屋に入って来て、倒れている里琴を見てから、俺を見ていた。 「里琴さんには怪我はありません。兎屋さん、ここに座って下さい」  兎屋は、渋々横に座ってくれた。そこで、俺が見てしまった、リンクの先を兎屋にも見せてみた。 「…………うううううんん。これは困ったね……今、市役所に連絡してみるよ」  立ち上がった兎屋が、貧血を起こして倒れそうになっていた。そこで、幾人かの店員が来ると、兎屋を支えていた。 「李下さん、もう少し、その男を捕らえていてください」  リンクの先を見てしまったので、俺も犯人の顔を見たくない。里琴を安全な場所に移動したいのだが、それも出来ない理由があった。  市役所から、生活安全課の相沢と、戸籍係の須藤という男性が来ていた。 「連絡先は、警察だったでしょうか?」 「いや、警察を呼んでも、私たちが派遣されるのですけどね」  俺は、相沢の手を取ると、リンクの先を見せておく。そして、次に須藤にリンクの先を見せてみた。 「つまりは、人切りであって、人殺しではないということですね。私の見た映像で、行方不明者と照合しています」  そこで、犯人の男が大笑いしていた。 「美味しかっただろ?元気になるスープだったろ?」  そこで、里琴は起き上がると、男を睨んでいた。 「殺していないよ。だって、殺すと、味が落ちるだろ?」  リンクの先では、とても言えない世界があった。この男は、確かに殺しているのではなく、少しずつ食べていた。どこまでが生きていると言って良いのか分からないが、部屋のあちこちで心臓が動いていて、頭が棚に陳列されていた。その頭の目が動いていて、中には泣いているものもあった。肉体が無いが、最小限の臓器で皆が生きているのだ。 「美味しくなんてない!よくも、私の大切な母親に、あんなものを食べさせたわね」  里琴が、男に平手打ちをした瞬間、縄がゆるみ男が抜け出た。 「ありがとよ、お嬢様!」  そこで、男が消えるように逃げてしまった。同時に、里琴とのリンクも切れていた。 「嫌、又、私のせいなの……逃がしてしまったの……」  里琴が悲鳴と共に、又、倒れてしまった。
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