第二章 千年時計 二

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 そこで、多美のように俊樹が重い鍋を振っていた。老衰間近の×が、俊樹に喰って欲しいと懇願し、俊樹は了承した。そこで俊樹は、幾人かの×の能力が使えるようになったらしい。  アクのない遺伝子は、誰かが喰いたいと思える特出した能力は無かったが、取り込むのは上手であった。もしかして、一番神に近い×は、個性のない者なのかもしれない。 「志摩、少し俊樹に×を分けてみて」  志摩は、俺の傍にいるので、かなりの量の×を喰ってしまった。 「はい、守人さん」  志摩は無形の×で、体内に空間を持っている。その空間に、多数の×も保管されていた。そこで、数人を俊樹に喰わせてみると、見事に能力だけ取り込んでいた。面白いので、もう数人渡すと、俊樹はすんなり融合していた。  そこで、気付いた事は、俊樹は×の能力を自分に取り込めるが、不要な遺伝子は即座に捨てていた。ここが、他の×と大きく違っている。他の×は、遺伝子をそのまま保管しているのだ。 「仙人や、兎屋に近い能力なのか」  自分の遺伝子は一定量を保ち、組み替えて進化してゆく。より優良な遺伝子を得ると、不要な遺伝子を廃棄する。 「ある意味、強い」  限界はあるが、俊樹は強い。 「俺も上月さんを、守れるようになりますか?」 「俺は、自分の身は、自分で守る。でも、これだけ腕力があれば、中華料理ができる」  俺がチャーハンを食べたいと言うと、俊樹は巨大な中華鍋を用意していた。 「練習します!」  俊樹と話し込んでいると、志摩が後ろで拗ねていた。 「私は、厨房から出られません……外で二人で話しているのは、ずるい」  そこで、志摩の近くに行くと、箪笥を撫ぜておく。そして、定食のセットを行った。志摩は、五十本近い手を出して、料理や洗い物、掃除までもを受け持っている。 「志摩、志摩がいないと、俺は生きてゆけないよ」  どんな苦境でも、一緒に生きてきてくれた、志摩がいたからこそ、俺は頑張ってこられた。 「志摩、大好きだよ」  そこで、俊樹の方が真っ赤になっていた。  村では同性婚が認められているうえに、重婚も認められていた。×は子孫を残せないので、むしろ、同性婚が推奨されていると言っていい。
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