第二章 千年時計 二

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 俺は人ではあるが、守人様であった。守人様というのは、子孫が管理対象になってしまい、許可なく子孫を残せない。決められた相手と子孫を残すしかない。これは、能力の分散を抑え、確かな継承をしてゆくことが目的らしい。 「上月さんと、志摩さんを見ていると、俺も相手が欲しくなりますね」 「谷津でいいでしょ。年も近いし」  俺のこの適当さで、友人の五十鈴を傷つけてしまっていた。五十鈴が好きになった、望都(のぞみ)という村の少女は、今も眠ったままになっていた。 「……谷津さんですか……そうですね、お互い上月さん大好きという点では共通していますが、他は合わないような……」  最初から否定しない点では、脈があるということであろう。  しかし、思い出してしまったが、望都の様子も見に行きたい。×の子供を産むということが、どんなに怖い事なのかも知ってはいたが、理解していなかった。あまりに普通に、村では×が生まれていたからだ。 「定食、不足しました!」  店が混んできたので、必死に定食を用意していると、時間になってしまっていた。俺はこれから、大学に行かなくてはならない。俊樹も学校に行くのだが、俺よりも始まりが遅かった。 「俊樹、先にあがるね。お疲れ様でした」  俺は、部屋に戻ると着替えて駅に向かった。  俺は電車通学をしているが、思えば、駅や電車の中でも様々あった。この路線は、最近、魔の路線と言われているらしい。余りに事故や事件で止まるので、通勤通学に使用したくない路線らしい。  俺は駅で降りると、大学まで歩き出す。この通学路には、安くて量の多い店が立ち並んでいる。喫茶店ひまわりも、安い定食を出しているが、最初から山盛りのご飯などはしていない。  定食の看板を見ていると、後ろから肩を叩かれていた。俺が振り返ると、そこには五十鈴が立っていた。 「上月、どうしたの?朝から腹が減っているの?」  五十鈴とは大学で知り合ったが、それからよく講義で一緒になっていた。五十鈴は、俺の事情を余り詮索しないうえに、アルバイトも紹介してくれる、いい友人であった。 「いいや、定食の組み合わせを参考にしていた」
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