第二十二章 北の森に朝は来るのか

9/11
前へ
/210ページ
次へ
 松明と月に照らされた世界には、蜘蛛と小出だけがいた。 『異種は全滅したようです』  けれど、小出は何かを探していた。 『雌はいなかったようです』  では、西崎を食った蜘蛛はどこかに逃げてしまっているのだ。  夜の森を歩き回る小出を見ながら、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。  翌日、目が覚めると志摩の手の中で、寝返りを打つと身を丸める。志摩の手をノックする誰かがいるので起き上がってみると、谷津が俺を見下ろしていた。 「西崎が蜘蛛に食われたそうだ」  それは、俺も知っていた。  俺は手を伸ばして、谷津も志摩の手の中に入れると、一緒に寝転んだ。 「食った雌は見つかったの?」  谷津は首を振っていた。 「西崎は人で、喰われるとかの世界には住んでいないと思っていた……」  ×ならば喰われる事は日常である。でも、人は喰われるということがない。もしも、小出が昼も起きていたら、蜘蛛の異変に気付いただろう。もしもなど考えても仕方がないが、やはり悔やまれてしまう。 「西崎の親は、行方不明で死亡にはしないと言っている」  死体があった訳ではないので、行方不明にするというのも頷ける。小出は、西崎を食ったと推測される、雌を探すらしい。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加