第二十二章 北の森に朝は来るのか

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「雌を探したところで、西崎はいないけど……」  それでも、小出にとっては、西崎の敵なのかもしれない。  蜘蛛の世界の事なので、俺が行っても役に立たないだろうが、やはり森を確認したい気がする。 「暫し、守人様は村には来るなと、市役所が言ってきたよ」  小出と、異種の蜘蛛を完全に駆除するので、終るまで村に来るなという。 「上月にも蜘蛛が住んでいるからさ。俺も心配だよ」  谷津と寝転んでいると、志摩が眠れとばかりに転がしてくれた。揺り籠のような状態で、かなり眠くなってしまう。  俺は何も守れないのに、村では守人様と呼ばれてしまう。結界で光りと村を繋いでいるが、他は守られてばかりいる。それに身近な人は消えてしまうと悲しくて、俺は村の生贄のシステムを否定してきた。  でも、こうして、俺は関わってしまった人間を又守れないのだ。 「上月、泣くなって……」  泣いているのかと、手で確認すると、頬に涙が残っていた。後悔しても、戻っては来ないので、もっと強くならなくてはと思う。 「上月……影は闇に非ず。自分の影は闇ではないよ。ただ照らされただけの影だ。ここには、皆がいて、上月を守っているし、愛しているよ……」  照らされた光が強い程、影は濃く感じる。でも、それでも、影は影で闇ではない。そう思って生きてゆくしかない。俺は守人様で、どうしても影は濃くなる。 「……きっと、失うばかりではないよね」 「そう。上月は俺を助けた。俺も、ずっと上月の傍にいるよ。志摩もいつも一緒にいるだろ?」  俺も皆が大好きで、役に立ちたいと思っている。 「そうですよ、守人さん。私はずっと傍にいます」  志摩の声も優しい。  きっと西崎も、役に立ちたかったのだ。  時計を見ると、朝になってしまっていて、俺は慌てて飛び起きると身支度を整える。志摩を背負って喫茶店ひまわりに行くと、多美から俊樹に代替わりをすると告げられた。  俊樹は、多美から全ての料理を引き継いだらしい。多美は、寿命が近いので隠居すると言っていた。 「畑も引継ぎましたし、相棒と住んでいますので、村でレトルトの販売も引き継ぎました」  俊樹の相棒というのは、やはりあの女装であろうか。 「親友と住んでいるのですが、親友の方は、趣味のせいで家から追い出されていますしね。自活ですよ」  あれは、親友であるのか。×同士なので、あまり深く考えていないらしい。
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