第三章 千年時計 三

2/9
前へ
/210ページ
次へ
 講義室まで辿り付くと、五十鈴は息を切らせていた。 「上月、望都ちゃんと連絡が取れないけど」  やはり、五十鈴が俺に聞きたかったのは、望都の事であったのか。五十鈴がいつもよりも早く来て、俺を捕まえたので事情があるとは思っていた。 「俺に聞くなよ……だいたい、五十鈴も望都ちゃんとは一回しか会っていないでしょ」  まさか、その一回で望都は妊娠して子供まで産んだとは言えない。×の子供であったので、数日で臨月までいってしまい、母体を弱らせてしまった。望都は衰弱して、目を覚ましていない。 「でも、出会いは時間ではないよね?俺達、結婚まで誓ったのに……」  出会った当日に、結婚の約束までしていたのか。 「村に帰ったら家に行ってみるよ。きっと、五十鈴との夜遊びのせいで、携帯電話を取り上げられているのでしょ」  ここでは嘘をつくしかない。 「……上月、村には兄がいるのだっけ?」 「いるよ。嫁さんと住んでいる。新婚ね」  そこで、新婚で見ていられないので、余り帰りたくないと追加しておく。五十鈴も、旗幟の姉と、俺の兄が結婚していると知っているので、笑って聞いていた。  無暗に、五十鈴を心配させるわけにもいかない。  講師が来たので、講義に集中しようとしたが、やはりあれこれ気になってしまった。俺が上の空になっているので、エンピツを持った大慈が溜息をついていた。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加