第三章 千年時計 三

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「現場に直江津がいたのは確かで、生徒が暴走しても、五強であったので止められただろうという疑問が残る。それに、何故、失踪したのかが分からない」  俺は、旗幟のデータを借りて読み、直江津の妻の情報を読んだ。すると、直江津の妻は、同じ征伐部隊の出身であり、五強に近い強さを持っていた。殺すだけで、あまり取り込まずにきたので、妻のほうは崩壊の前兆が無かった。しかし、直江津と結婚し、征伐部隊を引退する道を選んだ。 「殺すだけで、取り込まない……」  直江津の妻は、歳を取る事を止めた直江津と異なり、徐々に歳を取っていた。二十年前は、六十歳程に見えていたという。それでも、数百年を生きているので、若いだろう。 「×の歳の取り方は様々で、死ぬ間際に一気に歳を取るというのもある。この直江津の妻も、二十年前あたりで、急速に歳を取った」  直江津の妻は、自分の寿命が少ない事を感じていた。そして、学校で何らかの事件が起きる。  旗幟は、事件当時の画像も持っていたので、大慈と一緒にじっくりと見てしまった。そして、大慈は分析した画像を俺に記憶させてくれた。 「懐かしいね、出身校だ」  木造の校舎で、小さな小学校であった。  大慈は鮮明に俺に記憶させてくれたので、まるでその場に居たように見えてくる。 「あ、二時限が始まる」  これで、二時限も講義には集中できない。  旗幟のくれた画像は、多美から聞いた話とも合っていた。体育館に続く廊下に、激しい血飛沫、そして六年生の教室と、音楽室に血飛沫がある。  出発点はどこであったのだろう。他の教室も確認していると、理科準備室という部屋に、サンドイッチとおにぎりの入った籠が落ちていた。  これは、生徒に対しての差し入れだったのではないのか。サンドイッチには、ハムや野菜が入っていて、朝から作ったものではない、生ものであった。  では、ここで差し入れを落すような事があり、持って来たのは直江津の妻であったのだろう。六年生の担任は、直江津であるので、差し入れを持ってくるのは、六年生の親か、直江津の妻になる。  六年生の親は、全員、市役所からの連絡で事件を知ったと記述があった。ならば、残っているのは、直江津の妻だけになる。
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