第三章 千年時計 三

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 年下に、守人様を取られたということになったらしい。谷津が年下と言っても、一歳しか違わない。それも、俺は早生まれなので、本当は同じ歳になる。 「まあ、谷津は不遜な態度だからね」  それでゆくのならば、氷渡の方が不遜な態度だろう。たぶん、谷津は普通の家の出身なので、そこも気に障っていたのだろう。 「守人、仕事に行くから眠っていて」  そこで、蛇の仕事が終わるのを待って、心臓に移動してみた。やはり、蛇の枕と程よい冷たさが気持ちいい。  眠ろうとすると、どこかの景色が浮かんでいた。ここのところ、色々な画像を見てしまう。でも、今回は初めて、過去の映像であった。  木造校舎に、小学生が集っていた。皆、様々な楽器を持っているので、吹奏楽の練習だろう。そこで、直江津は丁寧に一人一人に教えて歩いていた。  そこに、佐川がやって来る。佐川は既に直江津の背を越していて、年もたいして変わらないように見えた。  佐川は、真剣に年を取るのが怖い、死ぬのが怖いと泣いていた。まだ、中身は小学生だった。  そこで、直江津は佐川の話を聞く為に、理科準備室の鍵を取ってきた。直江津と佐川が話していると、他の生徒が聞いてしまい、練習にならなかったのだ。  生徒に居場所を告げて、直江津が階段を登ってゆく。  でも、困った事が起こってしまった。佐川は体の成長に心がついてゆかずに、×の力が暴走しそうであったのだ。そこで、直江津は自分の手を佐川に咬ませ、血を与える。それでも、佐川の狂暴化は止まりそうになく、佐川は直江津の首を噛み切ろうとした。  そこにやって来た直江津の妻は、咄嗟に刀を抜いて、佐川を切り殺そうとした。しかし、直江津が佐川を庇い飛び出し、代わりに切られてしまった。  大量の直江津の血を浴びて、佐川は正気に戻った。しかし、今度は直江津の妻が、崩壊を始めてしまった。  逃げる佐川を追って、直江津の妻が歩きだす。まず妻は、怪我をして動かない直江津を片手で拾い上げると、肩に担いだ。しかし妻は直江津を担いでいるというのに、自在に刀を操り、音楽室で殺し、教室で殺してゆく。  直江津の妻は、喰わなかったのではない。殺しているだけに見えるが、切り殺した相手を霧状にして取り込んでゆくタイプであったのだ。直江津と同じように、×の喰い過ぎにより、崩壊に面しながら生きていた。
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