50人が本棚に入れています
本棚に追加
大学の帰り、道を聞かれた。
聞いた事のない地名で、聞いた事のない店の名前であったので、携帯電話で検索してみたが、やはり何も出て来なかった。
「すいません、分かりません」
古い店ならば、検索しても出て来ないのかもしれないし店が無いとは言い切れない。しかし、俺はここに引っ越してきて今年で三年目で、そう土地に詳しくはない。
頭を下げて家に帰り、ふと聞かれた店の名前を思い出した。
「志摩、ミカゲヤって聞いた事がある?」
今日は家で志摩が掃除をしていた。志摩は、俺の幼馴染で、長く一緒に住んでいる。志摩も朝ら夜中まで働いているので、休みの時は休んで欲しいのだが、いつも家の掃除などをしていた。
志摩は、持っていたモップを用具入れに戻すと、俺に手を広げる。俺は、走ると志摩の手の中に飛び込んでみた。
「守人さん、キャッチ!」
「俺はボールか?」
でも、志摩の手の中は気持ちいい。
俺は、上月 守人(こうづき もりと)薬剤師を目指す大学生であった。この手は志摩で、俺の出身地である壱樹村では、×(ばつ)と呼ばれる存在であった。×は、人よりも遺伝子が多く様々な形をしている。
志摩も、本体は無形でウミウシかアメフラシ、もしくはナマコのような形をしているが、伸びてくる手は人のものであった。しかし、手は畳よりも大きくもなり、俺をキャッチして包み込んでいる。
「ミカゲヤですか?聞いた事はないですね」
すると、奥の部屋から、黒川が出てきて冷蔵庫を漁っていた。
「御影屋ではないのかな。そういう店が村にはあったな……」
黒川は、やはり×であったが、こちらの世界でホストをしていた。×は様々な形の者が産まれるが、基本は人の形をとっている者が多い。しかも、黒川は人が振り返って更に二度見したくなるような、綺麗な顔と姿をしていた。
「上月が、生まれて頃には無かった、かな……」
やや寝ぼけていても黒川は綺麗で、かっこよく、見つめられると俺は目を逸らす。黒川は、黒い髪に、くっきりとした黒い瞳で、整った顔をしているうえに、眼力が凄い。
「俺は知りませんけど、昔ですか?」
「最後に行ったのは、百年くらい前かな……割と最近だな」
百年は最近とは言わない。×は長生きの者も多くいて、黒川も年齢を教えてくれないが、数百年を生きていた。
最初のコメントを投稿しよう!