50人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、志摩の手から出ると、レンジで黒川の食事を温める。黒川は、椅子に座って、俺が食事を持ってゆくのを待っていた。そして、黒川に食事を渡すと、嬉しそうに笑った。
「黒川さんでも、笑顔は可愛いですね」
「可愛いだと、上月、いつから、そんなに生意気になった!」
黒川は、食事をテーブルに置いてから、俺をヘッドロックしていた。
「でも、御影屋はちょっと物騒だな……」
黒川の知っている御影屋というのは、少し特殊な店であった。昔は、電話もあまり普及していなかったので、個人に連絡を取るのが難しかった。手紙を書いたり、家族に伝言しておいたりするが、伝わらない事も多い。御影屋は、死に対してのみ、相手に確実に教えるという商売をしていた。
「……個人を特定するという事もしていて、誰が死んだが分からない場合など、御影屋に頼った。すると、遺体の名前などを教えてくれる。他に、御影屋が死んだと言えば、それは死になった」
現在は、DNAなどが普及し、御影屋を頼るということは無くなっていたらしい。
「そうですか……でも、道を聞かれただけなので。それに、その御影屋と違うかもしれないし」
そこで、俺が志摩を見ると、志摩が手を開いていた。バイトに行くまでの僅かな時間が、志摩と触れ合える時間となる。そこで、志摩に走ってゆくと、おもいっきり飛び込んだ。
「志摩!」
志摩は俺をキャッチすると、手に握り込んで存在を確認していた。志摩の指だけで、俺の腹ほどもあるのだが、触れ方は優しい。それに、まるであやすように、指で俺を転がしていた。
「志摩、目がまわるから……転がすなって。それに、腹とか触るな、くすっぐったい、ひゃははは、志摩、止め!」
志摩の手が、脇などに触れるので、笑いながら転がってしまった。
「志摩、ストップ。ひゃははは、笑って苦しい……はは」
志摩の手の中に蹲ると、そのまま笑ってしまった。
「くすぐられて笑うのは、ガキだな」
黒川が、俺を馬鹿にしている。
「まあ、守人様は輝夜で、育ちが遅い上に、仮死が数回あるからな、ガキか」
笑い過ぎて、涙が零れる。
俺は、守人という名前だけではなく、出身村の壱樹村では、守人様という存在であった。守人様は、光とのリンクを持ち、村に光を与えている。
俺も、自分で張った結界を通じて、村に光を与えていた。この守人様は、百年に一人程度で産まれていて、現在は俺一人しかいない。
最初のコメントを投稿しよう!