第一章 千年時計

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 俺は、志摩の手から出ると、レンジで黒川の食事を温める。黒川は、椅子に座って、俺が食事を持ってゆくのを待っていた。そして、黒川に食事を渡すと、嬉しそうに笑った。 「黒川さんでも、笑顔は可愛いですね」 「可愛いだと、上月、いつから、そんなに生意気になった!」  黒川は、食事をテーブルに置いてから、俺をヘッドロックしていた。 「でも、御影屋はちょっと物騒だな……」  黒川の知っている御影屋というのは、少し特殊な店であった。昔は、電話もあまり普及していなかったので、個人に連絡を取るのが難しかった。手紙を書いたり、家族に伝言しておいたりするが、伝わらない事も多い。御影屋は、死に対してのみ、相手に確実に教えるという商売をしていた。 「……個人を特定するという事もしていて、誰が死んだが分からない場合など、御影屋に頼った。すると、遺体の名前などを教えてくれる。他に、御影屋が死んだと言えば、それは死になった」  現在は、DNAなどが普及し、御影屋を頼るということは無くなっていたらしい。 「そうですか……でも、道を聞かれただけなので。それに、その御影屋と違うかもしれないし」  そこで、俺が志摩を見ると、志摩が手を開いていた。バイトに行くまでの僅かな時間が、志摩と触れ合える時間となる。そこで、志摩に走ってゆくと、おもいっきり飛び込んだ。 「志摩!」  志摩は俺をキャッチすると、手に握り込んで存在を確認していた。志摩の指だけで、俺の腹ほどもあるのだが、触れ方は優しい。それに、まるであやすように、指で俺を転がしていた。 「志摩、目がまわるから……転がすなって。それに、腹とか触るな、くすっぐったい、ひゃははは、志摩、止め!」  志摩の手が、脇などに触れるので、笑いながら転がってしまった。 「志摩、ストップ。ひゃははは、笑って苦しい……はは」  志摩の手の中に蹲ると、そのまま笑ってしまった。 「くすぐられて笑うのは、ガキだな」  黒川が、俺を馬鹿にしている。 「まあ、守人様は輝夜で、育ちが遅い上に、仮死が数回あるからな、ガキか」  笑い過ぎて、涙が零れる。  俺は、守人という名前だけではなく、出身村の壱樹村では、守人様という存在であった。守人様は、光とのリンクを持ち、村に光を与えている。  俺も、自分で張った結界を通じて、村に光を与えていた。この守人様は、百年に一人程度で産まれていて、現在は俺一人しかいない。
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