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この守人様という事でも、あれこれと大変であるのに、俺は輝夜と呼ばれる体質も持っていた。輝夜というのは、美しい姿を持ち、人を魅了するような能力を持つ。しかし、輝夜が幼少期の場合は、保護欲を掻き立ててしまうらしい。俺は、未だ魅了ではなく、保護欲のみの存在だと馬鹿にされていた。
「上月、俺は仕事まで、少し時間があるから寝直す。そっちはバイトだろ?」
「はい。行ってきます」
俺のバイトは、通路を抜けて向かい側にある、喫茶店ひまわりの店員であった。
俺の家は、駅ビルの屋上にあり、元風呂屋を使用していた。この駅ビルの屋上は、心霊現象の多発により敬遠され、風呂屋は倒産、誰も借り手がいなかった。そこを、格安で借りて住んでいる。
喫茶店ひまわりも、当初は誰も客が来ない店になっていたが、今は結構な人数の客が来ていた。
心霊現象の原因は、この屋上にある木が、壱樹村と繋がっているせいであった。原因が分かれば対応できるので、今は心霊現象はない。
喫茶店ひまわりの厨房に入ると、志摩の箪笥を置いた。志摩は手を出すと、凄いスピードで洗い物を片付け始める。
「上月、おかえり」
店番をしていたのは李下(りか)であった。李下は、村の公務員で暗殺部隊であった。しかし、日中は、俺の代わりに喫茶店ひまわりの店員をしていてくれる。
「いつも、ありがとうございます」
俺は李下に礼を言うと、エプロンを掛けた。
俺が店内に出ると、今日は月が見えていた。それも巨大な月で、いつもの倍以上あるように見える。
「凄い月ですね……」
喫茶店ひまわりは、屋上庭園に面して、オープンテラスの席もある。又、庭園側の屋根が透明になっていて、店の半分がハウス栽培のような、温室のような雰囲気になっていた。この開放感のあるつくりから、幽霊騒ぎが多く発生していた。この屋上庭園は、壱樹村と繋がっている部分があり、少し異様なものも見えるのだ。
「月が赤い……」
これは、村の月とリンクしているのであろう。村では、俺の力が弱まると光が不足し、月が赤くなってしまう。
「村に行けということかな……」
ここの所、村には行っていなかったので、結界が弱まっているのかもしれない。李下も並んで月を見て、幾度か溜息をついていた。李下は、ここで俺の警護をしながら、守人様という能力に惹かれて来てしまう、×を狩っていた。
「……厄介ですよね、守人様というのは」
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