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×というのは、自分にない遺伝子を喰らい取り込み、完全な遺伝子を目指す。しかし、完全な遺伝子、神と呼ばれるのには、ただ喰えばいいのではなかった。不必要な遺伝子を捨て、進化してゆくしかない。ただ、多く喰らい続けていると、自身が崩壊してしまう。
直江津は、数百年を生きている×で、それこそ侍の時代から存在していた。そこで、職務として×を喰らい崩壊寸前に陥り、転職を余儀なくされ、現代においては教師をしていたらしい。俺も谷津も現役の学生であったが、直江津という教師は知らなかった。
「谷津、直江津なんて先生はいたか?」
『直江津は、二十年くらい前に失踪した』
だから、俺達には直江津という教師の記憶はない。
喫茶店ひまわりでバイトをしていると、同じく学生の俊樹(としき)がやってきた。俊樹は、日中は調理師学校に通い、夜はここで店員をしている。
「上月さん、店員を代わります」
そこで、俊樹も外の異様な殺気に気付いた。
「上月さんの周囲は、物騒ですよね。俺、何の能力もない×で、少し情けないです」
しかし、俊樹はここで料理をしている多美の元で修行をしていた。俊樹の料理は、真面目でおいしい。多美も、後は俊樹が経験を積めば、一人前の料理人になると言っている。
「俊樹は、凄いよ。情けないのは俺だよね」
俺が元凶で、トラブルがやってくるのだ。
「李下さん大丈夫でしょうか?」
「李下が負けるようならば、俺でも危険だな……」
李下は、村でも五強に数えられる×であった。李下が苦戦する相手ならば、守人様である俺でも勝つのは難しい。
「時間だから、行くね。帰りに志摩をお願いします」
「はい」
志摩は、自分では移動できないので、俊樹に頼んでおく。俺が喫茶店ひまわりから出て、通路に出ると、殺気は更に強くなっていた。
部屋に入ると、黒川もピリピリとしていた。しかし、李下の戦闘中に黒川が出ると、戦闘方法の異なりから戦い難くなってしまう。
「相手は、直江津だそうです」
「暗躍部隊の、化け物か。李下も苦戦しているな」
名前だけで、黒川は相手を特定していた。俺は、黒川にコーヒーをいれると、リビングの椅子に腰を下ろした。
「化け物ですか?」
「そう。直江津というのは、変化する×で、昔は暗躍部隊、今でいう征伐部隊にいた。そこで、上の命令のままに×を喰らい続けて、崩壊しかけた」
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