第一章 千年時計

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 そこで、何も喰わなくて済む、教師になっていたという。しかし、二十年前、生徒の×を喰って逃走した。 「失踪ではなくて、逃走ですか?」 「表向きは、失踪だったけどね」  何があったのかは分からないが、ある時、学校の中には×を殺した痕跡があり、その場にいたはずの直江津が消えていた。 「煙に変化すると切れないし、捕まえられない。そういう厄介な技を使う」 「そういう時はどうするのですか?」  黒川も、五強であるので、対策を知っているかもしれない。  すると、黒川は不思議そうな顔をして俺を見ていた。 「俺ならば、風使いだから、特に問題はない。それに、捕まえるよりも喰う方が簡単だ。守人様ならば、消すだけでしょ」  ならば、李下ではなく俺が出ていればよかったのか。今からでも遅くはないので、外に出ようとすると、黒川が止めていた。 「李下も対策はある。あいつも強いから」  李下も紐や刀だけではなく、呪縛のような技もあるらしい。どんな技なのか聞いていると、李下が帰ってきていた。それも、直江津も一緒に来ている。 「……李下、何で連れてきている?」 「直江津さんには、心臓を紐で結んでいますので抵抗は出来ません。少し、話を聞こうと思いましてね」  直江津からも殺気が消えていた。  直江津は、見た目は気の弱そうな青年であった。天然パーマの髪に、黒縁のメガネをかけ、長身を丸めて俺を見ていた。年は三十歳前後に見え、李下とそう変わらないような感じであった。 「ここに守人様がいるということは……私は、守人様に惹かれて来ましたか……」 「らしいね……」  李下も、黒川も話を聞くと言いながらも、戦闘態勢のままであった。俺が直江津に緑茶をいれると、直江津は音をたてて飲んでいた。どうも緊張感がない直江津であったが、黒川は腕を組んで、睨んでいた。 「直江津は、失踪?逃亡するまで、五強だった」  直江津は、そんなに強そうには見えない。しかし、考えてみると、常にやる気のない黒川と、溜息ばかりの李下も強そうには見えなかった。  時計を見ると、光二にチェンジする時間になっていたが、どうにも直江津が気になる。 「……その、記憶が無くなっておりましてね。掟破りで処刑されるのは仕方が無いですが。死ぬ前に、自分は誰を喰ったのか、殺したのか知りたいのですよ」
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