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直江津は、失踪となった前日の記憶までしかなかった。そして。最近、目覚めて、村に帰ろうと彷徨っていたらしい。
「御影屋を思い出しまして、私が喰った者を特定してから死にたいと思いまして……」
二十年前、生徒を喰って逃亡したと、他の者から聞き、どうしても自分が喰った生徒を知りたいと思ったらしい。
「教師としては、生徒を喰うとは、やってはいけない事でしょう」
何があったのか分からないが、直江津が今の状態ならば、確かに生徒を喰ったというのは信じられない。
「李下さん、どうするのですか?」
「今日は、話を聞いて、明日判断するよ」
直江津の記憶がないので、掟破りだと断定できないのだそうだ。
「それでは、俺は光二とチェンジして仕事に行ってきます」
俺は二重人体という、同じ空間に二人が存在する者であった。体も頭脳も別物であるが、同じ空間にいる光二と、一人の人として存在している。俺と光二はチェンジして生活していて、夜は光二の時間になる。
「守人、首を突っ込むなよ」
俺は光二にチェンジすると、光二の中の空間に取り込まれている。光二の中にいるといっても、俺の第二の家のような感じででもあった。内臓などはあるのだが、適当に通過もできるし、触れる事も可能であった。元々が異なる空間に存在し、重複しているので、表に出ていない方の存在が薄いのかもしれない。
最近の、俺のお気に入りの場所は、光二の心臓であった。ここは、狭く温かく、眠り易い。しかし、先客の蛇が寝ていた。
この蛇は光二に寄生していて、主に光二を修復していた。他に、闇を蓄えているオウムも中に寄生している。
『蛇、一緒に寝ようか……』
俺は、どうも閉ざされた空間にいると、他の世界が見えるらしい。こうして、光二の中にいると、浮かんだスクリーンのように外を見る事ができる。
しかし、不便な事は、この画像は俺が選べないということであった。今回は、先ほど谷津と喋っていたせいなのか、谷津の家の映像が見えていた。
谷津は一軒屋に住んでいるが、幾人かと同居はしていた。古い家であったが、かなり改装されていて、住みやすくはなっている。そこで、谷津は、セフレと言っている相手の、西崎の容態を確認していた。西崎は容態が安定し、車椅子で動けるようになっていた。
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