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そんなことを考えながらふと目線を上げると、いつのまにかそこにいた右斜め前の男に視線が止まった。 正しく言えば男の横顔で止まった視線。 それを感じたのか、男がこちらを向いた。 男の口の形が、あ、に開く。 そのまま、ども、という感じでぺこりと頭を下げた。 男がテーブルに置かれていただろう文庫本を持ち上げひらひらとさせ「読んでます。」 それはその男に頼まれて、プレゼントしたオススメ本だった。 長編ばかりの佐伯泰英には珍しい1冊完結ものだ。 もっとも、長編の番外編なので1冊完結というには語弊があるかもしれないが。 これ1冊でも読めないことはないので推薦した。 渡したときには新品だったその本。 すこしくたびれたカバーはその男が頻繁に持ち歩いていることを示していた。 そのことに気づいてほほが緩む。 「がんばって読んでるんだ。」 「え…まぁ。でも、時間が空いちゃうと前を忘れちゃうからそのたびに最初から読んでいてなかなか読み終わらなくて…すみません。」 「まぁ、忙しいよね。」 「や。まぁ…。」 男が首をすくめて頭をかいた。
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