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ひとりが差し出したスマホに眼を落とす。 ぶ。 焼きそばを食べている男の手前に写ってる後姿はあたしだ… そこで声をひそめながらもやや興奮した色を付け加えて答えた。 「ねぇ。もしかしてやっぱりあれ本人?もしやって思ってたんだけど。あたしもフードコートでみたのよ。でもこんなところで焼きそばを食べてるとか思わないじゃない?でも凄く気になったからちょっと離れてみてたの。でね。さっき、あっちの通路を右に行ったわよ。もしかするとあの先にエスカレーターあるし上のシネコンかなぁ…都内とかだと目立つからこういう地方都市でゆっくり観たいのかもしれないわね。あたしもおっかけようかな。文具コーナーでマジックと色紙を買ってから向かうわ。それから騒ぎになったらマズいから走るのはやめない?」 我が意を得たり、といった風情の女たちは競歩選手かよ!とツッコミを入れたい後ろ姿で、あの男が絶対にいない方向へとまっしぐらに向かった。 …あんたがたの捜している人はウチの背の君とパンツ選んでるわよ。この真後ろの売り場でね。 名前で呼んだらマズいからって役名をそのまま隠語にしても気づいちゃうとは…。コアなファンがいるとは聞いていたけどさすがね。 地方都市なら大丈夫かと思っていたものの、この調子ではわからない。 さすがに気になって売り場へ行ったけど、選び終わって会計にでも行ったのかふたりの姿がみえない。 それならば、と、約束のフードコートへ戻る。 バッグからスマホをとりだす。 背の君からのメッセージが届いている。 『ついでにもう少し買い物をしたいそうだ。つきあってくる。フードコートで待っていてくれ。』 しかたないわね。 仕事が忙しいだろうしそうそう時間を作れるわけじゃないだろう。こういうときにいろいろ一気にどうにかしたいよね。
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