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おれは調査票を机に戻す知路をじろりと見上げた。端正な顔に苦味が走るのがわかった。
「まだ諦めてないの?」
「……」
黙って視線を逸らす知路。おれはさらに畳み掛ける。
「何度も言うけど、トモには向いてないと思うよ、お笑い芸人は」
これが知路に嫉妬しなくなったもうひとつの理由だ。
ほぼ全てのことを完璧にこなすこの幼馴染みが夢見たのは「人を笑わせること」だった。普段から冗談すらほとんど言わないような知路が何故お笑い芸人に憧れたのかはわからない。自分に無いものだからこそ、魅力を感じたのかもしれない。
けれどそれは、おれや知路の両親や、知路本人の目から見ても、あまりに遠すぎる夢だった。
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