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【第1章 アキラ】
〔1〕
子供の頃から、写真を撮るのが好きだった。
父親のお下がりでもらった古いフィルム型の一眼レフは、小学生の身に少々重かったかも知れない。しかし、重さを気にすること無く少年は、毎日カメラを首から下げて手当たり次第に写真を撮った。
現像代が馬鹿にならないと渋い顔をする母親に、「将来ピューリッツァー賞を取るかも知れないぞ、投資だと思え。」と、父は良く笑っていた。そして中学に上がる頃には、現像も自ら手がけるようになったのだった。
銀行員の父は転勤が多く、日本各地を転々としながらマンションの窓から見える景色、山、川、海、至る所をカメラに納めていった。
花、昆虫、動物。
車、電車、飛行機。
史跡、寺院、オフィスビル。
そして人間……。
「須刈ぃ! 何やってんだ、おいてくぞ」
「おう、悪ぃ!」
千葉県警本部の建物を見上げていた須刈アキラは、友人に呼ばれて急ぎ足で後を追った。
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