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〔5〕
海のある方角から、灰色の雲が流れてくる。茜色に染まる空は徐々に暗さを増し、民家やビルの窓に点る明かりが増えてきた。
車が高速に乗ったところで、少し開いたドアウィンドウから冷たくなった風を受けていたアキラが窓を閉める。
「ところで、報道部に鷺ノ宮というカメラマンが居ただろう?」
それまで事件後の学園の様子を聞いていた神崎は、思いついてアキラに尋ねた。
「はぁ……会いましたよ」
「彼とは話をしなかったのかい?」
「別に、何も」
しかしアキラは、興味なさそうな返事を返す。
「残念だな、君とは話が合いそうだと思っていたんだが」
時折入る警察無線に耳を傾けながら、窓の外を見ているその表情は変わらない。
変わらないが故に、何かあったなと、神崎は思った。
署内で鷺ノ宮の話題と言えば、現場で警官と喧嘩したとか、立入禁止の場所を無許可で撮影したとか、あまり良い噂がない。神崎が機動隊にいた頃、勝手に制服を拝借して暴力団事務所の一斉検挙に紛れ込んだこともあった。
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