【第1章 アキラ】

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「デジタルカメラが、あまり好きじゃ無くてねぇ……。そうだなぁ、気に入ったカメラを手に入れたら熱意が湧くかも知れないけど、性能良いやつは手が届かないよ」  それだけか? と、佐野は疑念を抱いていた。  アキラが夏休みに撮影旅行の目的で訪れたアメリカで半年もの間行方がわからなくなり、翌年の春に帰ってきたことを誰もが知っている。   復学したアキラは少し変わった、変人になったと言う者もいたが、本質は変わっていないと信じたかった。  アキラの留年が決まり佐野と同じ学年になったとき、自分はもう先輩ではないから呼び捨ててくれと言った。しかし皆は、「さん」付けで呼び距離を取った。  四月生まれの自分と一月生まれのアキラを同年という意識でとらえ、同じクラスメイトとして付き合いたかった佐野だけが「須刈」と呼びすてたのだ。  アメリカでいったい何があったのだろうか?   いまのアキラは全てのことにおいて、一歩引いた関わり方しかしない。わざと興味のないふりをしているように、彼には思えた。  ところが秋本遼の関係した例の『叢雲石膏像事件』では、何故かアキラは積極的に関わってきたのだ。  以前の彼が戻ってきたようで正直、佐野は嬉しかった。  だが事件は結末を迎え、また無為に毎日を送っている。そしてその目は、何時も遠くを見ているように思えるのだ……。     
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