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〔3〕
「うちのカメラマンの鷺ノ宮を、随分と前から紹介してくれと頼まれていたのになかなか時間がとれなくてね。もともと人と会うのが嫌いなやつなんだが、『叢雲』の学生だと言ったらやっと時間を作ってくれたんだよ。例の事件には彼も興味があって、取材に行きたがっていたのに別件が入ってしまったんだ」
須刈アキラは、石井の後に続いて署内の長い廊下を歩きながら何度も警察関係者の探るような視線を感じていた。
犯罪者になって、連行されているような気分だ。
しかしそんな居心地の悪さを感じているアキラに比べ、佐野はあまり気に止めてはいないようだ。羨ましい性格ではあるが、鷹揚な人間は多分報道カメラマンには向かない。
希望している山岳カメラマンは、佐野にとって良い選択といえるだろうなと、アキラは思った。
叢雲学園に山岳部はないが、裏手にある岸壁で練習するクライミング同好会に佐野も参加しており、受験する大学には名の知れた山岳部と写真部があるのだ。
さすがに部外者を見る視線から早く逃れたいと思い始めた頃、ようやくアキラと佐野は中枢からかなり外れた所にある報道部の小部屋についた。
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