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部屋はカメラ機材や書類が薄高く積まれたデスクが所狭しと並ぶ雑然としたところで、霞がかかったようにたばこの煙が立ちこめている。コーヒーと、埃の匂いが混ざった淀んだ空気が咽にしみて、慣れるまでは胸のむかつきを抑えなくてはならなそうだ。
「汚いところで悪いが、どうせなら報道部の実態を知ってもらおうと思ってね。おい、鷺ノ宮」
涙が滲みそうになる目を凝らすと、書類の影からタバコをくわえた若い男が顔を出した。
「あいよ。汚いところにようこそ、学生さん」
無精ひげに、ぼさぼさの頭。くわえタバコにだらしない服装。想像していた通りの人物が登場し、アキラが可笑しさを噛み殺す。
「んで、どっちが報道カメラマンの実体を研究に来たんだ?」
鷺ノ宮は二人を値踏みするかのように眺めた。
「いや、こいつらはお前の出身大学を受験する前に、写真部のことや山岳部のことを聞きたいだけだよ」
石井の言葉に「なあんだ」と、鷺ノ宮はつまらなそうな顔になる。
「あ、でもこいつは、以前報道カメラマンになりたいようなこと言ってましたよ。紛争地帯を、自分のカメラで捉えたいって」
余計なことを言ってくれる、と、アキラは佐野を見て小さく溜息をついた。
確かに以前、一年で写真部に入った佐野にそう言ったことがあるが、まさか覚えていたとは思ってもいなかったのだ。
鷺ノ宮は興味深そうにアキラを見て、にやりと笑った。
「へえ、君の名は」
「須刈アキラと言います」
少し構えて、アキラが答える。
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