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安井穂希は、保護者として春一が自宅まで送っていくことになった。
安井は茫然自失していて、とてもひとりで帰せる状態ではなかったし、それに人を殺傷できるカッターナイフを身につけていた。
刑事事件にする気はないが、安井の家族にも話せる事情を説明して、しばらくは様子を見てもらう必要があるとの、春一の判断だった。
思春期の時期には、自覚なしに超常現象を引き起こすこともある、と春一が小声で教えてくれた。
「秋哉たちが見た超常現象が、すべてソレで説明がつくとは言わないけれど」
と前置きした上で、自覚がないから、時にはそれが自分の命すら脅かすことがあるんだ、と。
場合によっては病院に行くことも家族に提案する、と春一が言うほど、安井は弱っていた。
また弱っていたのは安井だけではなく、冬依も立っていられないほど具合を悪くした。
あの場にあった人ならぬモノの感情を、誰よりも敏感に受け取ってしまったせいだろう。
冬依のことは、夏樹が背負って帰ることになった。
帰る間際、夏樹は、
「甘ぇんだよ秋は。こんなこと続けてちゃ、今に痛い目にあうぞ」
厳しい瞳で秋哉に忠告をくれたが、
「いいさ。そうなったら、またナツキが守ってくれるんだろう」
秋哉は屈託なくそう言う。
どんな凶悪なモノが襲いかかって来ても、兄弟たちがいつだって駆けつけてくれるだろう。
身を挺して秋哉を庇ってくれるのは、何も今回ばかりじゃない。
口で何を言ったとしても、この兄弟の絆は、何よりも強い。
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