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いくつもの洗濯機のドラムが回転する音をモリの豪快な笑い声がかき消す。
「何よ、そんなに笑うこと?」
久しぶりの再会の嬉しいを誤魔化すようにふくれっ面した私を柔らかく見守るような眼差しとぶつかって、すぐにつま先に視線を移す。
「こういう所って初めてなの」
視界の端でモリの長い足が組替える。その革靴の艶やかさに、慎ちゃんの靴のことが過ぎる。
「慣れりゃあどうってことないだろ。家事の一つだし、みんなやってる」
モリ、私はみんなやってる家事の一つすら上手くこなせてないんだよ…とは言えなかった。
顔が上げられない私がトートバッグの上で組んだ手をモリは見ているかもしれない。
左手の薬指の証は、選ばれし愛される者達の印だと信じている。掃除や料理も嫌いって程じゃない。でもそれは余裕があるから楽しめることで、時間に追われて追い詰められてしまうものだとは知らなかった。
一連の家事に対する評価は"当たり前"のことであって作業に評価は終わりはない。けれど、サボれば確実に生活に支障が出る。
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