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今、この電話に出るのが躊躇われて指が動かない。チラ見したモリは顎をシャくると気を利かせてこちらに背を向けてくれた。
「もしもし?」
『真亜子!今どこに居るの?』
らしくない早口での即答は機嫌の悪さが推測できて無意識のうちに肩に力が入る。
「あ、あの….ランドリーに来てて」
『どこのランドリー?一人で?』
マンションの周辺には幾つかのコインランドリーがある。すぐ近くの所は建物が古くて入る気がしなくて、もう一つの所は店舗が小さくて洗濯機は全部埋まっていた。
「えっと、マンションから近い所だと思うんだけど…」
コンコン、とテーブルをノックする音がして、モリを見ると入り口の自動ドアを指差していた。指差す先のガラスには “ウォッシュフレッシュ 鴨芽銀座店”と大きく書かれてあって眼に映る文字をそのまま声に出した。
『あぁ、あそこか…。真亜子、一人で平気?俺、すぐ行くから。そこで待てるね?』
慎ちゃんの声色は明らか落ち着いて優しくなった。
「うん。まだ乾燥してるし…」
通話を終えてスマホをバッグに仕舞って一息ついた。
「そろそろ行くわ」
モリはカゴを手にして腕時計を見ていた。
「もう行っちゃうの?」
まだ話し足りない私は一歩踏み出した。何か言わなきゃ、と焦っても気の利いた言葉は浮かんでこない。
「マメ、あんまり思い詰めんなよ」
私の二の腕を軽く2回叩いて前歯を見せて笑う。
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