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「これ……」
打ち合わせを済ませて席に戻ると、来月からの現場の図面と一緒に小さな紙袋。見慣れたそれは私が好きな近所のベーカリーショップのロゴ。
メモ一つ残さなくても誰からの差し入れか分かってる。そっと開いた袋の中は私が必ず買う胡桃とドライフルーツの全粒粉のパンが入っていた。
「さっき旦那さんが来てましたよ」
「うん。ありがとう」
デスクの受話器を取って設計の内線番号を押す。それは慎ちゃんのデスクにあるから、慎ちゃんの在席の時は3回コールで繋がる。
慎ちゃん…
5回目のコールを聞く前に内線は諦めて、自分のスマホに切り替える。開いたトークの画面の吹き出しは私からの長いものがほとんど。
慎ちゃんからの返信の吹き出しはいつも短くて小さい。
結婚も仕事も自分が望んだことなのに、こんなにもしんどいばっかりで辛い。暗くなったスマホの画面を見ているようで私の眼には何も映らない。
今はまだ「ごめんなさい」も「ありがとう」も言葉にできそうにない。
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