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茉嶺から祖父と祖母は外出していると聞くと、幣次はそそくさと家の中に上がり込んだ。
「いやハハ、散々な目におうたわ。ずっとやりくりしながら旅を続けてたんやけど、途中で置き引きに遭うわ詐欺に遭うわしまいにゃ仲良くなったおん……人に何度も持ち逃げされるわで、どんどん金が減ってもうてな」
毎日のように贅の限りを尽くし散財していたことは伏せ、これまでの行きさつを早口で語る幣次。
「ホンマは最後、カジノのギャンブルでまた一発当てる予定やったんや。せやけどあの宝くじで運全部使い果たしてもうたんかな、ことごとく裏目に出てな、最終的にすっからかんになってしもうてな。それからお父ちゃん、死に物狂いでいろんなとこで雑用続けてな、ほんでようやく帰って来れたんや」
思わず額を押さえたくなる幣次の話を黙って聞く茉嶺。
「てなわけで、お父ちゃんにはもうなーんにもあらへん。夢も叶えてもうたし、生きる気力ものうなってもうた。全く、つくづくダメな人間や。お父ちゃんは。カンニンやで……茉嶺……」
声を弱々しくさせたまま話を終えると、茉嶺は徐に立ち上がり、襖を開け隣の部屋に入っていった。襖の隙間から、これまで幣次が送った悪趣味な置物や人形がところ狭しに飾られているのが見えた。
そして茉嶺は段ボール箱を持って正座する幣次の前に戻ると、箱の中から、一枚の画用紙を取りだした。
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