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「茉嶺、お父ちゃんな…………たっ、たきゃらくじ当たってん」
「たきゃらくじ?」
男は深呼吸した後、今度は大きめに口を開いた。
「た・か・ら・く・じ、宝くじや! しかも聞いて驚くな。なんと1等! 1等が当たったんやでッ!」
その男、幣次は、一人娘の茉嶺と家賃二万三千円のアパートで細々と暮らすしがない庶民だった。
そう。あの日、パチンコで余った端金で何気なく宝くじを買うまで、ただの一庶民だったのだ。
「お父ちゃん1等賞とったん? やったーっ。ほな今日はサバ缶の他にコンビーフも開けてお祝いやね」
「缶詰めなんかもう食わんでええ! これからは毎日食いたいもん腹いっぱい食わせたる! 何でも好きなもんこうたるわ! なんせお父ちゃん、億万長者になったんやでェーーッ!」
興奮気味に茉嶺を持ち上げその場でクルクル回ると、今度は祈るように両手を組み、潤んだ瞳を上へと向けた。
「ああ……きっと今まで真面目にコツコツ働いてきたよって神サンがプレゼントしてくれたんや……。神サン、おおきに。ホンマおおきにぃーーッ!」
節穴だらけの天井に向かって叫んだ後、幣次は慌てて口を塞いだ。
「……ッと、危ない危ない。誰かに知られたらかなわんわ。壁に耳あり障子に目ありや」
「ウチに障子あらへんで」
茉嶺のツッコミをスルーし、幣次はいそいそと財布から自身をジャンボなドリームへと導く紙切れを取り出し、改めてマジマジと見つめた。
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