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「とにかくこいつを金に替えたら早いとこここを離れなあかんな。どこかに身を隠さなすぐ誰かに嗅ぎつかれてまうわ」
「おウチ引っ越すん?」
「せや、知り合いも親戚も借金取りもおらん場所に行かな、金貸せゆうてせびられてまうわ。ああいや借金はちゃんと返さなあかんな。それでも人生二、三回遊んで暮らせるくらい余裕で余るわ」
「遊んで暮らせるん? 働かなくてええの?」
「せや、金があればどんなこともできる。金にできないことはあらへん。金さえあれば、円香も助けられた……」
そうポツリと呟き、部屋の片隅に置かれた写真の女性を見て、幣次は下唇を噛み締めた。
しんみりとした空気が流れる中、解放された口からボソボソと声が漏れ出す。
「……せや、今のオレなら何でもできる。今まで散々苦労し不幸を味わってきたんや。ここでチャラにせな、釣り合いが取れんわな……」
幣次は茉嶺と向き合うと、再び声の調子を上げ言った。
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