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「茉嶺、お父ちゃん前からいつか世界を股に掛けるビックな男になるゆうてたな?」
「うん。昨日もゆうてた」
幣次はニカッと歯を見せ、壁に貼られた世界地図をしげしげと眺めた。
「お父ちゃんな、子供の頃から世界中を旅するのが夢やってん。せやからお父ちゃん、その夢、叶えてもええか?」
「お父ちゃん、外国行くん?」
「せや。お土産ぎょうさんこうてきてやるさかい、茉嶺は田舎のバアちゃんとこに行き」
「イヤや! ウチも行きたい!」
飛び跳ね哀願する茉嶺に、幣次は首を横に振った。
「あかん。この旅は何年かかるか分からへん。茉嶺、お前は来年から小学校に通うんや。あんなに行きたがってた学校に行けるんやで? ピカピカのランドセルもこうてやるさかい、しっかり勉強しい」
無言で俯く茉嶺に、幣次はパンと手を叩いた。
「さあ、膳は急げや。まずはパスポート取りに行かんとな! せや、職場に退職届も出さんと!」
生き生きとしてアパートを飛び出す幣次。一人残された茉嶺は、写真の中で微笑む女性の顔を見てため息をついた。
「お母ちゃんウチ、プレゼント渡せんかった……」
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